インプラント埋入のタイミングについて
「抜歯後にどれくらいの期間が経ってから、インプラントをすべきなのですか」とよく患者さんから質問を受けます。
ニューヨーク大学(NYU)インプラント科の留学当時においても、よく話題になるトピックスでした。2007年に発表されたNYUグループのElian先生らの論文をもとに、抜歯窩の唇側骨と軟組織の有無によって如何に治療計画をたてるか、また抜歯後の唇側骨が残存しているか否かによってインプラント治療をどのタイミングで行うかということが、Tarnow先生の授業においてもよく取り上げられていました。
結論から述べますと、抜歯後6週間程度経過後にインプラント治療をするのがよいのではないかと私自身は考えています。その根拠はこれから述べさせていただきます。
キーとなるElian先生らの論文では、抜歯が必要な歯に対する解剖学的な状態を以下の3つに分類しています(図1)。
- 図1
- Type I:軟組織とともに唇側骨が残存
- Type II:軟組織はあるが唇側骨が欠損
- Type III:軟組織も唇側骨も欠損
つまり、抜歯が必要な歯に対する歯の唇側骨の有無を触診や画像診断によって診断することがとても大事であると考えています。
また、ベルン大学グループのChappuis先生らの論文によれば、唇側骨は抜歯に残存していたとしても、1ミリ以下の薄い唇側骨しか残存していないケースでは平均7.5mの垂直的な骨吸収を生じ、平均して62.3%もの唇側骨吸収が生じることを明らかにしました(図2)。
- 図2
一方、1ミリ以上の唇側骨が残存しているケースにおいては平均1.1mmのみの垂直的な骨吸収を生じ、平均して9.1%の骨吸収が生じることを明らかにしました(図3)。
- 図3
つまり、抜歯する際に唇側骨が存在していたとしても、1ミリ以上の唇側骨が残存していなければ、骨吸収を生じてしまうことが明らかになっています(図4)。
- 図4
では、1ミリ以上の唇側骨の厚みがあるケースはどれくらいあるのでしょうか?
過去の論文(図5)によれば、前歯部においては1ミリ以下の唇側骨のケースが約90%にも上ることが明らかになっています。つまり、前歯部の多くケースにおいては、Elian先生らの分類のType IIに該当する可能があります。
- 図5
では、このType IIに対する治療方法はどのようにすべきでしょうか?
同じくベルン大学グループのBuser先生らの報告(図6)に基づき行っていきます。
- 図6
抜歯後どれくらいの期間を待ってからインプラントを埋入すべきなのかということは、以前はあまり注目されていませんでした。この論文が発表された時期に私が留学していたということもあり、現NYUインプラント科ディレクターCho先生の下、NYUクリニックにおいても臨床的なデータを積極的に集めていました。
(当時、本間輝章先生(NYUインプラント科卒業)はグレーターニューヨークにて、この手法による臨床報告を行い素晴らしい評価を受けました。)
当院においては、この手法による臨床的に優れたデータに基づいて、Buser先生らのType IIのタイミングにおける治療方法を、標準的な治療方法として選択しています。
ケースによって選択すべき手法は異なると思いますが、患者さんにとって間違えのない手法であると思っています。先生によって治療へのアプローチは異なるものですが、この手法が論文的な観点からもインプラント治療において適切な方法であると考えています。
インプラント治療に対して疑問のある患者さんはご来院いただきご質問下さい。
患者さんの未来が明るい歯科医療を提供できることはとても大切なことと思っていますので何卒よろしくお願いいたします。